すいかの匂い
新潮社 | 2000/06/28
みんなの感想
懐かしい夏の風景が次々と蘇ってくるような、そういう感覚を味わえる一冊でした。 11人の少女たちの夏の記憶を綴ったエッセイ風の短編集なのですが、読んでいて自分自身の子ども時代がありありと思い出されるんですよね。バニラアイスの木べらの味、ビニールプールの感触、おはじきの音—こうした細部の描写が本当に丁寧で、まるで自分も同じ時間を共有していたような不思議な感覚に陥ります。 エンジニアという仕事をしていると、ついつい論理的思考ばかりになりがちなのですが、こういう感覚的で詩的な文章に触れるのって心地いい。各編が短めなので、通勤時間や就寝前のちょっとした時間に読むのに最適です。 深刻になりすぎず、でもどこかノスタルジックで、それでいて切実な感情が層状に重なっているのが素敵。大人になった今だからこそ感じられる、夏の記憶の輝きと痛みが同時に存在する—そんな複雑さが心に残りました。気軽に読めるのに思いのほか余韻が長く続く、良い本です。
思い出したい感覚
夏の記憶って、なぜこんなに鮮烈なんだろう。この本を読んでいて、ずっとそのことを考えていました。 バニラアイスの木べらの味、ビニールプールの感触、すいかの匂い——こんなふうに、感覚を通じて思い出が蘇る瞬間ってありますよね。11人の少女たちの夏の物語なんですが、どの話を読んでも「あ、私もこういうことあった」って思わず頷いてしまいます。 特に良かったのは、子どもの無邪気さと、同時にそこに潜む複雑な感情がきちんと描かれているところ。大人になった今だからこそ感じる、当時の困惑や痛みが丁寧に拾い上げられていて。それでいて説教的じゃなくて、そっと寄り添ってくれるような温度感が心地よい。 短編集だからサクサク読めるし、一つひとつの話が短くても心に残るものばかり。通学中とか、ちょっとした隙間時間に読むのに最適でした。もう一度読み返したくなる、そんな一冊です。
手に取った時点では、タイトルと表紙だけでは内容の全貌がつかめず、少し迷いながら読み始めた一冊でした。しかし読み進むうちに、その慎重さが吹き飛んでしまいました。 十一人の少女たちの夏の思い出を集めたこの作品は、どのページを開いても懐かしさと切なさが同居しています。バニラアイスの木べら、ビニールプール、おはじき――子どもの頃に誰もが触れたはずの小さな物たちが、こんなにも深く心に刻まれていたのだと気づかされました。 大人になった今だからこそ感じられる、あの時代への向き合い方があります。痛みや戸惑いも含めて、自分たちの内面がどう形成されていったのか。静かに、でも確実に語りかけてくるような筆致に、何度も手を止めて思い出しました。 慎重に本を選ぶ私だからこそ言えるのですが、この本は期待を大きく上回る素晴らしさです。どの章から読んでも、そして全部読み終わった後にも、心の奥底に何かが残ります。大人の女性に、本当にお勧めできる一冊です。
書店で手にとって、装丁の柔らかい雰囲気に惹かれて買ったのだが、予想以上に良い本だった。 子どもの頃の夏の思い出というテーマは、誰もが共感できるものだと思っていたが、この作品はそれを極めて繊細に描いている。スイカの匂い、ビニールプールの感触、おはじきの音——こうした些細な感覚の描写が、読んでいて自分の子ども時代までもが蘇ってくる。それは懐かしさだけでなく、あの頃の純粋さと同時に抱えていた戸惑いや秘密までもが、ありありと想起させられるのだ。 十一人の少女たちの物語ということで、最初は複雑かと思ったが、それぞれの視点を通して夏という季節が、いかに子どもたちの心に烙印を押すのかが丁寧に綴られている。大人になった今だからこそ分かる、当時は気づかなかった複雑さや痛みが随所にある。 ただし、短編的な構成なので人によっては物足りなさを感じるかもしれない。しかし、短いからこその美しさがあると思う。静かで、深い。ゆっくり読むべき一冊だ。