あしたの君へ
文藝春秋 | 2019/11/07
みんなの感想
柚月裕子の作品はいくつか読んできたが、この『あしたの君へ』は予想以上に引き込まれた。家庭裁判所という舞台自体が珍しく、そこで働く人間の葛藤を丁寧に描いている点が魅力的だ。 主人公の家裁調査官補・望月大地が、試験には合格しても現場ではまだ修習生という立場で、窃盗や少年犯罪などの実際の事件に向き合う過程が、リアリティを持って描かれている。法律知識がない一般読者である私も、その戸惑いや成長を一緒に追体験できるような構成になっているのが上手い。 何より印象的なのは、登場する事件の当事者たちの人生背景だ。犯罪という表面的な事実だけでなく、その背後にある複雑な家庭環境や人間関係を描くことで、単なる法廷ドラマではなく、人間ドラマとしての深さが生まれている。裁判官や調査官といった職業人がどうやって当事者に「寄り添う」のか、という本書のテーマが、ページを重ねるごとに重みを増していく。 実務的な知識欲も満たされ、かつ感動的でもある。職業小説としても人間ドラマとしても、バランスの取れた良い作品だと感じた。
柚月裕子の新作と聞いて、さっそく手に取ってみました。定年してからは話題の本を逃さないようにしているもので、この著者の作品は必ずチェックしているのです。 この『あしたの君へ』は、家裁調査官という仕事を通じて、人間ドラマの本質に迫る作品ですね。主人公の望月大地が少年事件に関わる中で出会う様々な人生——窃盗事件の少女、ストーカー事案の高校生、親権を争う両親たち。一つ一つのケースが非常によく描き込まれていて、引き込まれました。 これまで数多くの小説を読んできましたが、この作品の素晴らしいところは、単なるミステリーや感動ストーリーに留まらず、人間が「どのように変わるのか」という深いテーマを掘り下げている点です。調査官補として関わることで、他者の人生にどう寄り添うのか——その難しさと尊さが丁寧に描かれています。 今の時代、こうした地道で本当の意味での人間関係を描く作品は貴重です。文庫本という手軽さも良い。年配の読者にも、若い世代にも強くお勧めしたい一冊ですよ。
家裁調査官という、世間一般にはあまり知られない職業を題材にした作品だったので、正直なところ手に取るまで少し躊躇していました。ですが、柚月裕子の著作は以前読んだことがあり、その丁寧な人物描写への信頼があったので、思い切って読んでみることにしました。 結論として、その期待は見事に裏切られませんでした。むしろ上回りました。本書では、少年事件に関わる様々な立場の人物たちの人生が、繊細に、かつ温かなまなざしで描かれています。新人調査官の大地が、困難な事案と向き合う中で、人々の抱える問題の複雑さと、その根底にある人間関係の大切さに気づいていく過程が、とても自然に、そして説得力を持って語られているのです。 会社員として、職場での人間関係に時に疲れることもある自分にとって、この作品は改めて「寄り添うこと」の意味を考えさせてくれました。押し付けがましくない、でも確実に心に届くメッセージが随所に散りばめられていて、読後は心がじんわりと温かくなります。サスペンスやミステリーのような興奮は求めていない、こういう「誠実な物語」が好きな方には特におすすめできる一冊です。
新社会人として社会に出たばかりの身として、この作品は本当に刺さりました。家裁調査官補として働く主人公が、様々な事件を通じて人の人生と向き合う姿が描かれているのですが、その一つ一つが丁寧で、深く考えさせられます。 柚月裕子さんの作品は以前から好きだったのですが、今作は特に心に残りました。窃盗事件やストーカー事案など、一見すると「悪いこと」をした人たちが登場するのに、それぞれの背景にある複雑な人間関係や事情が丁寧に描かれているんです。簡単に「善悪」では判断できない、その曖昧さや複雑さが現実的で素晴らしい。 主人公が「寄り添う」ことで、人の人生が少しずつ変わっていく過程が、新入社員の自分にとって仕事の意義を改めて考えさせてくれました。人のために何ができるのか、どう向き合うべきなのか——それが本当によく伝わってきます。 エッセイのような温かさを保ちながら、小説としてのストーリーがしっかりしている。慎重に選ぶ身としてですが、自信を持ってお勧めできる一冊です。