短くて恐ろしいフィルの時代
河出書房新社 | 2021/08/06
みんなの感想
最初は設定だけを見て、ちょっと難しそうだなと思っていたんですが、読み始めたら一気に引き込まれました。内ホーナー国と外ホーナー国という、一見すると奇想天外な世界観なのに、そこに描かれる権力の構造や民衆心理が妙にリアルで不気味です。 フィルというキャラクターが本当に秀逸で、彼の台頭を見守る(見せられる)感覚は、おとぎ話というより現代の政治風刺のような緊張感があります。短編集とはいえ、その短さが逆に効いていて、各話が鮮烈に心に残ります。 ただ正直なところ、翻訳がやや癖があるというか、句読点の打ち方や表現が独特で、最初は読みづらさを感じました。でも読み進めるうちにそれも含めてこの本の魅力だと気づきます。抱腹絶倒という帯の言葉通り、笑える場面も多いのに、同時に背筋が寒くなるようなシーンもある。その緊張感の行き来が素晴らしいです。 新社会人として、世の中の仕組みをあらためて考え直させてくれる一冊でした。
河出書房新社の新刊紹介欄で目についた本です。正直なところ、タイトルも装丁も奇想天外で、最初は躊躇しました。でも説明文を何度も読み返すうち、これは只事ならぬ作品だと感じて手に取りました。 正解でした。こんな面白い本は久しぶりです。内ホーナー国と外ホーナー国という設定だけで既に魔法のような世界観なのに、フィルという人物が現れた途端、物語が一気に生命を帯びる。彼の演説シーン、民衆の熱狂ぶり、次々と起こる奇想天外な事件の数々——全てが絶妙なバランスで調和しているんです。 何より素晴らしいのは、このおとぎ話が実は現実を鋭く風刺しているという構造です。権力、狂信、民衆心理といった重いテーマを、こんなにも軽やかに、時に失笑を誘うような荒唐無稽さで描き出す著者の力量には脱帽します。読んでいて思わず笑いが漏れそうになるのに、同時に背筋が冷たくなる不思議な感覚。 64歳になって、まだこんなに新しい読書体験ができるのかと、嬉しくもあり驚きもあります。文庫本というお手頃さもいい。迷っている方には、ぜひお勧めしたい一冊です。
期待値が高かったぶん、正直なところ少し肩透かしを食らった感じです。アメリカ文学の鬼才というふれこみと、独特の世界観の設定に惹かれて手に取ったのですが、読み進めるにつれて物語の軸足が定まらないような印象を受けてしまいました。 フィルという人物が脳の欠陥から独裁者へと上り詰める過程は、確かに想像力豊かですし、風刺的な笑いも随所にあります。ただ、その諷刺が時に過剰で、読者を置き去りにしてしまっているような感覚があるんです。フリーランスで様々なテキストに目を通す身として、著者の意図は理解できるのですが、それが読みやすさや納得度につながっているかというと微妙です。 特に後半の展開は、独創性よりも奇抜さに振り切ってしまった感が否めません。背筋が寒くなるというキャッチコピーは本当かもしれませんが、それより先に「この話、どこに向かってるんだ?」という違和感が先行してしまいました。短編集なので細切れで読めるのは利点ですが、全体的には再読の価値を感じられませんでした。
河出書房新社の文庫版を手に取ったのは、装丁のシンプルさと「アメリカ文学の鬼才」という帯の謳い文句に惹かれたからです。政治風刺とファンタジーを融合させた作品だと聞いていたので、期待を持って読み始めました。 設定のユニークさは確かです。内ホーナー国と外ホーナー国という架空の国家構造、そしてフィルという独裁者の台頭を描く話の枠組みは、現代政治への痛烈な批評として機能しています。脳がラックからはずれるたびに民衆を魅了するという表現も、独裁者の支配メカニズムを象徴的に示していて、読み手に考えさせる力があります。 ただ、読み進めるにつれ、その「抱腹絶倒」という触れ込みほどの笑いを感じることができませんでした。風刺としての切れ味は鋭いのですが、どこか距離感があるというか、感情移入しづらい部分があります。おとぎ話としても、物語としての深さに少し物足りなさを感じました。 決して悪い本ではないのですが、期待値と実際の読後感にズレが生まれてしまった、というのが正直なところです。思想書好きの自分としては、もう一段階、読み手の心に響く何かが欲しかった。