このところ新聞でもよく話題になっている『おまあ推理帖』を手に取りました。アガサ・クリスティーの名作をこの時代に江戸浅草で蘇らせるという企画に、思わず興味をそそられたのです。 読み始めてみると、おまあというおばあさんのキャラクターがとても良い。江戸の庭で野草を育て、人々のお悩みを聞く気ままな隠居暮らし。そのような田舎の暮らしぶりは、私たち高齢者にも身近に感じられます。何も知らないようでいながら、ふっと人の心の奥を見抜く。そういう知恵を持った老人像というのは、古くて新しい魅力があるものですね。 諸田玲子さんの筆致は相変わらず確かで、江戸情緒がみずみずしく描かれています。密通の怪文書から始まる事件の数々も、古風でありながらも妙に現代的な人間ドラマが奥底に流れていて、引き込まれます。退職後の身として、このようなお話の中で人生経験を重ねたおばあさんが活躍する場面は、なんだか我が身のことのように感じられました。談話室で語り合うような、そんな親しみやすさがこの作品の何よりの魅力だと思います。
最近登録された他の本の感想
2026年10月11日
最近の話題作だということで手に取った一冊だ。この著者の『三日間の幸福』は以前読んでいたので、どんな新作かと興味を持ったのだが、実に見事な仕上がりだ。 架空の青春時代の記憶を与えられた青年が、実在しないはずの人物と出会う——この設定だけで既に心を掴まれる。記憶と現実が揺らぐ感覚、それでも何かが確かに存在していた気がする、そうした人生を揺さぶるような問い掛けが全編に貫かれている。 年を取ると、記憶というものの曖昧さが身に沁みてわかるようになる。本当に起きたことと、思い込んでいることの区別がつかなくなることもある。この作品はそうした人間の本質的な課題に真摯に向き合っている。登場人物たちの切実な想いが丁寧に描かれ、物語が進むにつれ涙ぐまずにはいられなかった。 恋の物語とも言えるし、喪失と再生の物語とも言える。複雑で繊細な人間関係を美しい文章で紡いだ佳作だ。話題の本をチェックしている身として、これは読むだけの価値が十分にある。文庫化を待っていた人も多いだろう。心からお勧めできる一冊である。
2026年10月07日
歴史小説のシリーズ第二弾ということで、前作に続いて手にしました。文政五年の江戸を舞台に、医学を志す女性と刀匠を目指す男性が同じ日に生まれながら、全く異なる人生を歩む様が描かれています。 最も心に残ったのは、二人が各々の道で直面する現実の厳しさです。女性であるがゆえの医療界での差別、若き職人の技術的な壁——時代は異なれど、こうした葛藤は今の世にも通じるものがあります。また、疫病という歴史的背景が物語に深みを加えており、当時の人々の恐怖や使命感が生き生きと伝わってきました。 著者の歴史考証の丁寧さと、登場人物たちへの同情的なまなざしが秀逸です。敵対関係にあるわけでもない二人が、ただ異なる道を歩みながら時代の波に揺さぶられていく——その緊張感のある展開が、最後まで目が離せませんでした。退職後、こうした質の高い文学作品に出会えるのは本当に幸せなことだと改めて感じます。シリーズ第三弾も待ち遠しい一冊です。
2026年09月25日
最近、テレビでも話題になっているゲッターズ飯田さんの手帳を手に入れました。80歳にもなると、正直なところ占いなど信じるほうではありませんが、話題の本は押さえておきたいと思いまして。 手に取ってみると、実に丁寧で美しい作りです。金の鳳凰座という名前の通り、装丁が上品で机の上に置いておくだけで気分がいい。サイン本というのも嬉しいですね。 内容も単なる占いに留まらず、毎日を過ごすうえでの心構えや運気を高めるための工夫が随所に盛り込まれています。これからの一年を気持ちよく過ごすためのガイドとして、なかなか実用的だと感じました。 退職後、時間に余裕が出た分、こういった本で日々の暮らしを少し豊かにする工夫をするのも悪くない。話題作を追いかけるという楽しみもありますし、若い世代との共通の話題も増えるというものです。 手帳として実際に使いながら、ゲッターズ飯田さんの言葉に耳を傾ける。そういった時間も、人生の晩年にしてはなかなかいいものだと思います。
2026年09月13日
80年も生きていますと、時代とともに変わる教育や読書の在り方について、ついつい考えてしまいます。このセット本を手にしたのは、今どきの若い世代にどんな作品が推奨されているのか確認したいという好奇心からでした。 開いてみると、懐かしい作品から現代の話題作まで、実に上手く選書されていますね。夏目漱石や芥川龍之介といった古典の傑作はもちろんですが、近年注目されている作家の作品も含まれていて、時流を感じさせます。何より各巻の構成が工夫されており、難度も段階的に上がっていく。昔の国語の教科書よりよほど洗練されています。 退職後、読書の時間を大切にしてきましたが、この企画は単なる教材ではなく、日本文学の奥深さを幅広く味わうための良い案内役となっています。孫たちへの贈り物としても最適でしょう。わが国の文学の粋が、これ一セットに凝縮されている。長く愛読される一冊として価値があると思われます。
2026年09月09日
最近、ドラマでも話題になっている『屍人荘の殺人』シリーズとのことで、この第3弾を手に取ってみました。80歳にもなると、ページをめくるのも一苦労ですが、この作品はぐいぐいと引き込まれました。 廃墟遊園地という舞台設定がまず素晴らしい。昭和の時代を知る私たちには、かつての栄光から朽ちていく風景が独特の恐怖心を生み出します。屋敷内での連続殺人事件と、登場人物たちの絶望的な状況描写は、本当に手に汗握る思いで読み進めました。 著者・今村昌弘の筆力に感服します。複雑に絡み合った謎が、最後にきちんと解き明かされる爽快感。そして綾辻行人との対談も興味深く、ミステリー文学の奥深さを改めて認識させられました。 若い頃ほど長編小説を読むのは体力が必要ですが、この作品はそれだけの価値があります。エンタメ性と知的満足度のバランスが絶妙。今時の話題作もなかなかやりますね。
2026年09月02日
最近、新聞で『魔女の体力』という本が話題だと見かけたので、図書館で借りてみました。80歳の身としては、40歳から運動を始めるという話がどうも他人事とは思えなかったんです。 読んでみて驚きました。夜型で低体力な編集者が朝型運動好きに変わっていく経過が、実に生き生きと描かれている。著者のユーモラスで温かい文体が素晴らしい。仕事と生活に追われ、どん底の状況にあった彼女が運動を通じて人生を取り戻していく様子には、思わず引き込まれてしまいました。 退職後の身として、運動の大切さは充分に感じています。ただ、この本の素晴らしさは、単なる健康指南書ではなく、人生を再構築する物語として綴られているところです。体力をつけることが、いかに心の状態も変えていくのか。それが実に誠実に、そして時には笑いを交えて語られている。 韓国でベストセラーになった理由がよくわかります。老いた身にとっても、若い世代にとっても、何か大事なことを思い出させてくれる一冊です。
2026年08月30日
新聞の書評欄で話題になっていたので、文庫本が出たのを機に手に取ってみました。最近のミステリはどうなっているのか、知りたいという好奇心もありましてね。 いやはや、驚きました。二つの事件が複雑に絡み合う構成、そして予想外の展開の連続。作家が謎解きイベントに参加する場面から物語は始まるのですが、ゲームのはずがやがて現実のホラーへと変わっていく緊迫感。一方で記憶喪失の青年をめぐる警察の捜査も並行して進み、二つのストーリーがどう結びつくのか最後までわかりません。 この年になると、安易な結末には満足できなくなっていますが、この作品はそこをしっかり抑えています。催眠術による捜査という興味深い手法も使われており、心理サスペンスとしても秀逸です。800ページを超える長編ですが、ページをめくる手が止まりませんでした。今どきのミステリ小説の実力を思い知らされた一冊です。文庫で読みやすいのも良いですね。
2026年08月27日
昨今、高齢者向けの学習本が話題になっているとのことで、この一冊を手に取ってみました。微分という、かつての学生時代に苦手だった分野を改めて学び直すというのも、なかなか良い刺激になるだろうと思ったのです。 入門編は確かに読み物として楽しく、歴史的背景を交えながら微分の本質が説かれています。この部分は新書らしく、わかりやすい。ただ、中級編以降は数式が増えていき、正直なところ私のような素人には追い切れない部分も出てきました。証明の過程を丁寧に追おうとしても、やはり頭に入りきらない。それでも「読むだけでわかる」というタイトルの通り、完全に理解しなくても、流れとしては把握できるような構成になっているのは工夫だと感じます。 上級編のテイラー展開やオイラーの公式という言葉は聞いたことがあるような、ないような。この深さまで必要か迷うところではあります。全体的には、きちんと書かれた教科書ですが、万人向けとは言い難いというのが率直な感想です。
2026年08月27日
最近、孫のビジネス研修の話を聞いていて、財務諸表という言葉がちょくちょく出てくるようになった。退職後も経済ニュースには目を通すほうだが、正直なところ貸借対照表と損益計算書の関係がよくわからなかった。そこでこの新版を手にしてみたのだ。 新聞の新書版というのは、活字も大きく読みやすいのが良い。何より驚いたのは、複雑に思えていた会計の仕組みが、取引ごとに財務3表をつくる「ドリル」方式で、まるで絵解きのようにすっと理解できることだ。基礎から丁寧に説明されているため、会計の知識がない者でも無理なく読み進められる。 80歳の身で、今さら会計知識が必要なわけではないが、世の中を理解するには数字を読む力は大切だと改めて実感した。話題の本というのも納得である。若いビジネスパーソンだけでなく、私のような世代が教養として学ぶにも実に良い一冊だ。
2026年08月15日
このシリーズの第4弾とあって、手に取らずにはいられなかった。デパ地下の和菓子屋を舞台にした物語だが、単なる日常の記録ではなく、登場人物たちの心の動きがしっかり描かれているのが良い。 主人公・アンちゃんと周囲の人間関係の変化、別れと出会いを通じて、人生が常に動いていることを改めて感じさせてくれる。80年も生きてくると、若い頃のような劇的な出会いは減るものだが、この作品を読んでいるとそうした小さな変化の積み重ねが実は大切なんだと思い直させられた。 和菓子の描写も丁寧で、読んでいて実際に店に行きたくなる。食べ物を通じて人間関係を描くという手法が上手く機能している。前作までの流れを引き継ぎながらも、新しい展開が加わっており、シリーズとしての深まりが感じられた。このまま次の巻も出るだろうと思うが、楽しみに待つことにしたい。話題作として紹介されるだけの価値がある一冊だ。
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