しんの本棚
カフェーの帰り道

カフェーの帰り道

嶋津 輝 東京創元社 2025年11月12日

感想

直木賞受賞作という触れ込みで手に取った本書は、期待通りの傑作だった。大正から昭和へと移る時代に、東京・上野の片隅にあるカフェーで働く女性たちの人生を丹念に描き出した作品だ。 「女給」という職業を通じて、その時代を生きた市井の女性たちの複雑さや葛藤、そして尊厳が浮き彫りになる。タイ子、セイ、美登里、園子といった登場人物たちは、決して一枚の紙ではなく、読み進めるにつれて立体的になっていく。各々が異なる夢や挫折を抱え、それでも前に進もうとする姿勢は、どこか現代に生きる私たちにも響く。 著者の筆致は温かみがありながらも、けして甘くない。歴史小説というカテゴリに留まらず、人間そのものへの向き合い方に真摯さを感じた。百年前の物語であっても、人が何かを望み、葛藤し、生きていくという本質は変わらないのだという認識を改めて持たせてくれる。社会人一年目の今だからこそ、この作品に出会えたことに感謝したい。

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